多職種連携論の理論的構成と展開 ― 終末期ケアと共創的ターミナルケアの文脈から
多職種連携論の理論的構成と展開 ― 終末期ケアと共創的ターミナルケアの文脈から

ここでは、多職種連携論の理論的構成・派閥的展開・終末期ケア領域における特性、そして共創的ターミナルケアに基づくターミナルケア指導者との関係性を統合的に論じます。


1. 多職種連携論の意義と成立背景

多職種連携(Interprofessional Collaboration)は、現代の医療・福祉・教育・地域包括ケアにおいて中核的概念である。背景には、専門分化の進行により個々の職種が単独で対応できない複合的課題が増大したことがある。特に終末期ケア(ターミナルケア)の領域では、患者本人の尊厳、家族の意思、医療的判断、倫理的配慮、そして地域社会との関係性が重層的に交差するため、多職種間の協働的意思決定は不可欠となる。

日本では1990年代後半以降、チーム医療の推進が厚生労働省政策の重点として掲げられ、地域包括ケアシステム構築(2010年代以降)においては、医師・看護師・介護職・ソーシャルワーカー・薬剤師・リハビリ専門職などが連携する体制整備が進められてきた。この文脈の中で、多職種連携論は単なる実務的調整を超え、「異なる専門知識体系をいかに架橋するか」という知識論的・社会学的課題として深化している。


2. 多職種連携論を構成する理論と法則

多職種連携論は複数の理論的基盤から構成されており、代表的なものに以下の三系統がある。

(1)システム論的アプローチ(Systems Approach)

この系統では、組織やチームを「相互依存するシステム」として捉え、職種間の情報流通や意思決定を「開かれたシステムの相互作用」として理解する。Ludwig von Bertalanffy の一般システム理論(General System Theory)に端を発し、組織論的には Peter Senge の「学習する組織」論(Learning Organization)とも接続する。

ここで重視されるのは、「相互フィードバック」「情報循環」「自己組織化」といった概念である。多職種チームにおいては、一方向的な指示ではなく、各専門職が知見を持ち寄り、全体として患者中心の意思決定を形成する「動的平衡(dynamic equilibrium)」が理想とされる。

(2)社会構成主義的アプローチ(Social Constructionism)

Kenneth Gergen らによる社会構成主義は、知識や意味は社会的相互作用の中で構築されるとする立場であり、多職種連携においては「異なる専門言語(専門用語体系)の翻訳・再構成」プロセスを重視する。

たとえば、医師は病態生理を中心に語り、看護師は生活機能を中心に、介護職は日常支援を中心に語る。これらが共通理解に至るには、「言葉の再意味化(re-contextualization)」が必要である。ターミナルケアにおいては、「延命治療」「尊厳」「看取り」といった概念自体が多義的であり、連携の中で社会的に再定義されていく。

(3)認知的境界理論(Boundary Theory)

Etienne Wenger の「コミュニティ・オブ・プラクティス」理論や、Carlile の「知識境界(knowledge boundary)」理論が基盤である。異なる専門職はそれぞれ異なる「実践共同体(community of practice)」に属し、知識や行動様式が異なる。したがって、連携には「境界オブジェクト(boundary object)」すなわち共通理解を促進する媒体(記録、会議、事例検討会など)が必要とされる。

この理論系では、ターミナルケア指導者のように「境界を渡る者(boundary spanner)」が不可欠である。すなわち、異職種間の翻訳者・調整者・媒介者としての専門家の存在が、連携を成立させる鍵とされる。


3. 多職種連携論の主要派閥と代表的研究

多職種連携論の理論的発展は、主に以下の三派に分けられる。

(1)機能主義派(Functionalist Approach)

代表:T. Parsons、R. Katz、現代ではWHO・OECD の国際的医療チーム研究群。

この立場では、各専門職が明確な役割と機能を持ち、それらが協調的に働くことによってチームの全体効率が最大化されるとする。したがって、連携の主眼は「役割明確化」「情報共有」「マネジメント体制整備」に置かれる。

ターミナルケア領域では、チーム内での役割分担(医師=医学的判断、看護師=ケア調整、MSW=家族支援など)が重視される。日本の厚生労働省が推進する「地域包括ケアシステム」は、基本的にこの機能主義モデルの延長上にある。

(2)相互行為主義派(Interactionist Approach)

代表:E. Goffman、A. Strauss など。ここでは、連携は制度的枠ではなく、日常的相互行為の中で生成・変容するプロセスと捉えられる。

現場では、職種ごとの権威構造や「語り方の差異」によってコミュニケーションが阻害されることがある。これを調整するには、共感的対話、反省的実践(reflective practice)、語りの共有などが必要であり、ターミナルケア指導者はまさにその対話促進者として位置づけられる。

(3)批判的構成主義派(Critical Constructionism)

代表:P. Freire、M. Foucault らに理論的源流をもつ。専門職の権力構造や知識支配を批判的に捉え、患者・家族・地域住民をも含めた「共創的連携」を志向する。

この立場は、終末期ケアにおいて「患者の語り(narrative)」を中心に据え、ケアの主体を多元化する。近年注目される「共創的ターミナルケア」や「市民参加型ACP(Advance Care Planning)」の理念は、この派閥に連なる思想的潮流の上にある。


4. 終末期ケアにおける多職種連携の特性と背景

(1)終末期ケアにおける多様な価値の共存

終末期ケアは「正解のない領域」である。医学的正当性と倫理的正義、本人の尊厳と家族の希望、延命と自然死の境界など、複数の価値が並立する。したがって、連携の焦点は「合意形成」よりも「価値の共存と調整」にある。

(2)ACP(アドバンス・ケア・プランニング)政策の展開

厚生労働省は2018年以降、「人生会議(Life Meeting)」の普及を推進し、ACPを終末期ケアの中核に位置づけている。ACPとは、本人が将来の治療やケアの希望を前もって考え、家族や医療・介護関係者と話し合い、記録・共有するプロセスである。

この政策は、本人中心の意思決定支援を制度的に保証するものであり、ターミナルケア指導者はその実践現場で「対話支援者」「多職種調整者」として重要な役割を果たす。

(3)共創的ターミナルケアの理念

終末期共創科学振興資格認定協議会・知識環境研究会が提唱する「共創的ターミナルケア」は、ケアを一方向的な支援ではなく、「関係性の創造」と捉える。つまり、医療者・介護者・家族・本人・地域住民が、それぞれの知と経験を持ち寄り、「ともに生きる意味」を再構築するプロセスである。

この理念に基づくターミナルケア指導者は、知識の媒介者・関係性の調整者・倫理的ファシリテーターとして、多職種連携の中心的存在となる。


5. 事例分析:多職種連携とターミナルケア指導者の実践的役割

事例1:在宅医療チームにおける意向不一致の調整

がん末期の患者A氏(70代)は在宅療養を希望したが、家族は施設入所を求めた。医師・訪問看護師・ケアマネジャー間でも見解が分かれた。ここでターミナルケア指導者は、各職種の意図を翻訳し、A氏本人の語りを中心に再構成した。

結果、本人の希望と家族の安心感を両立させる「緩和ケア付き短期入所→在宅再移行」という柔軟な方針が形成された。この事例は、「専門職間の境界を超える対話促進」というターミナルケア指導者の媒介的機能を示す。

事例2:病院から地域への情報連携

B氏(80代)は脳梗塞後のリハビリ中に予後不良と診断された。病院と地域包括支援センター間で情報共有が不十分であり、退院支援が滞っていた。ターミナルケア指導者は「境界オブジェクト」としてのケアプラン記録を共通フォーマット化し、医療・福祉・家族の三者会議を設置。結果として、B氏の尊厳を保つ形で在宅移行が実現した。

ここでは、知識管理とシステム的調整を行うターミナルケア指導者の役割が顕著に現れている。

事例3:地域包括ケア推進会議における倫理的合意形成

地域医療圏内での看取り率を高める政策目標の下、「自宅での看取り」を奨励する自治体方針に対し、医療職の間で「本人意思の確認が困難な場合の倫理的妥当性」が議論となった。ターミナルケア指導者は、ACP支援の倫理原則(autonomy・beneficence・justice)を基礎に、現場職員との対話を促進し、「本人の過去の語りや家族の意向を含めた代理意思決定モデル」を導入した。

このプロセスは、単なる制度運用ではなく、倫理的熟議を通した「共創的意思決定」の実例といえる。


6. 知識論的考察:専門性間の架橋としてのターミナルケア指導者

多職種連携の根底には、異なる知識体系を架橋する「知識の翻訳(knowledge translation)」がある。専門職間の知識は構造的に断絶しており、その橋渡しには、単なる調整能力ではなく「メタ専門性(meta-professionalism)」が求められる。

ターミナルケア指導者は、以下の三層でその架橋を担う。

  1. 認知的架橋:専門言語・診療方針・ケア観の翻訳
  2. 社会的架橋:組織・立場・価値観の差異を調整
  3. 倫理的架橋:生と死の意味に関する対話の媒介

この三層構造を通じて、ターミナルケア指導者は「知の共創」を推進する専門職として、多職種連携論の理論的実践者である。


7. 結論:共創的ターミナルケアが拓く新たな連携の地平

多職種連携論は、単なるチーム運営理論ではなく、異なる専門性・価値・倫理観を調和的に共存させる「知の共創理論」である。その最前線に立つのが、共創的ターミナルケアの理念を具現化するターミナルケア指導者である。

彼らは、専門職の枠を超え、患者・家族・地域社会を含む多層的ネットワークを形成し、終末期における「よりよく生き、よりよく逝く」ための社会的基盤を支えている。

したがって、今後の終末期ケアにおける課題は、制度的連携の拡充のみならず、共創的知識環境の形成――すなわち、知と倫理と関係性が交錯する新しいケア文化の構築にあると言えるだろう。